北谷町立浜川小学校
那覇から西方に約100km、飛行機で約30分の離島、久米島。沖縄県内では5番目に大きな島で、約8千人が住んでいます。島の東側にある長さ約7kmの細長い砂浜の島「ハテの浜」や白々とした細かな砂が特徴的なビーチが延々と続く「イーフビーチ」など、他の離島と同じように美しい海はもちろん、標高約300mの宇江城岳など雄大な山々も特徴的な島です。
伝統工芸品・久米島紬は国の重要無形文化財に指定されており、琉球王国時代から現在に至るまでその美しさを伝え続けています。農業も盛んで、サトウキビ・肉牛・キクの栽培が中心です。水質にも恵まれ、県内最大規模の生産量を誇る泡盛酒造所「久米島の久米仙」が本拠地を置いています。
今回はこの久米島に、10月23日から3日間、北谷町立浜川小学校(喜屋武辰弘校長)の5年生の児童・教員約110人が訪れ、自然に親しんだり島の人々と交流したりしながら、離島での生活を自ら体験し、多くのことを学んで帰りました。
■入島式の様子
飛行機で約30分の短いフライトの末、空港に着いた子どもたちを出迎えたのは、民泊などでお世話になる久米島のみなさんでした。手には「めんそ~れ 北谷町立浜川小学校のみなさん」の横断幕。子どもたちは「こんにちは」、地元のみなさんは「いらっしゃい」「ようこそ」と笑顔で声を掛け合います。
久米島空港の敷地内で行われた入島式で、久米島町観光協会の高江洲義昌さんは「台風が過ぎて天気が良くなって、きれいな海も見えるはずです。島の人はみんなにお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんのつもりで接します。楽しい思い出を作ってください」と語り掛けました。
浜川小の喜屋武校長は「久米島での経験や交流を通して、子どもたちが成長し心が豊かになっていくと思います。(この事業で)絆がつながって『また久米島に行きたい』という子どもたちが増えればいいなと思います。お世話になります」とあいさつしました。
続いて、児童を代表して照屋未采(みこと)さんは、事前に久米島についての調べ学習を学年で重ねてきたことに触れながら「今日から実際に離島体験ができます。楽しみですね」と期待をにじませながら「久米島のみなさんや先生方などたくさんの人が関わっています。感謝の気持ちを忘れないように行動しましょう」と、これからの3日間に向けて気を引き締めました。
フレッチャー・スティーブン君は初めての離島にわくわく感をにじませていました。「車では行けない所だから。うれしかったです」
-初日の23日、2日目の24日は川での自然体験と各民泊先での体験を行いました。全4学級を「1・2組」「3・4組」の二手に分け、川と民泊での体験を1日ずつ交互に行いました。
■川での自然体験
子どもたちが久米島の自然を満喫し学ぶために訪れたのが、2000年に開館した「久米島ホタル館」です。久米島には、1994年に県の天然記念物に指定されたクメジマボタルなど固有種も多く、独自の生態系が生命を育んでいます。久米島ホタル館は、そんな久米島の自然を生き物の飼育やパネルで展示・紹介しているほか、施設内の草地、湿地、川で生き物が生活できるようにし、環境を守り注いでいます。
今回、子どもたちは実際に川に入ってどんな生き物がいるのかを身をもって知るとともに、川底に流れたまった赤土を取り除くことで、生き物にとってより良い生活環境をつくってあげるお手伝いをしました。
「先生!カニの手がある!」「ヤゴだ!」「水が気持ちいい!」-。 あちらこちらから網を手にした子どもたちの声や水しぶきの音が聞こえてきます。「思いっきり泥だらけになっていいんですよー」と声を大にするのは久米島ホタル館の佐藤文保館長(59)。「昔の人は自然の中で遊ぶのが普通でした。子どもたちにはまずこの楽しさを体験してほしいです」と、このプログラムに期待を寄せます。
知花大地君は、左手に網を持ち右手で水ごとかき入れる独自のスタイルでヒラテテナガエビの赤ちゃんを次々捕まえては観察していました。網を10回水に入れれば、7回はエビが入っている高確率で、周りの友だちも関心しています。ラウル宮如君は川底のぬかるみを踏みしめる感触を「初めて」と楽しみながら、長靴いっぱいに入った水をチャプチャプ鳴らしながら陸に上がっていきました。
続いて、子どもたちは川底にたまった赤土をスコップですくい取ってバケツに入れ、みんなで手渡しリレーで運び出しました。川に浸かって土をすくう係の子は、服を汚しながらもいきいきと土を掘り当てます。「重い重い」と言いながらもみんな笑顔で協力しながら運んでいきます。
川底の土は、もともと畑から流れ出たもので栄養がいっぱい含まれているため、そのまま水溜りの底にたまってしまっては水が汚れる一方です。運び出した土は陸の植物の栄養に変えられ、自然のサイクルの中でまた新しい役目を与えられます。
展示室も子どもたちの注目を集めました。ラマン・ティアラさんは初めて見るハブに興味津々で「お父さんとお母さんに見せたい」とカメラのレンズを向けていました。川満貴史君はもともと生き物が好き。前にインターネットでシャコの動画を見ていたといい、今回は本物のシャコの骨格標本を目の前にして喜んでいました。
■民泊体験
「雑草が(抜いてる途中で)ちぎれないように、根元からねー」と教えるのは赤嶺實さん(66)です。赤嶺さんのお宅には初日の23日、南穣然君、池原雄海君、金城七翔君、金城渉太君の4人がお世話になります。インゲン畑で雑草を抜いたり、保温などの理由で畑を覆うネットを設置したりしての農業体験です。食べ物の生産の現場に向き合う子どもたちを見ながら、赤嶺さんは「今の子どもたちがどういうふうに育っているのかがこちらとしても興味深いです」と、世代を超えて同じ時間を共有することで、さまざまな発見に期待しています。
畑に行く前は家の庭に生えているアダンの葉で風車を作りました。担任の先生が訪れると、子どもたちは得意げに風車をくるくると回しては見せ始めます。自分で作った自然のおもちゃには思い入れがあって、ついつい誰かに見せたくなってしまうようです。
「がんばーれ!てーるこさん!」とリズムよく掛け声を送るのは菅原アーサー仁君、川上和翔君、仲田隆玖君、新垣海君の4人。民泊体験の一環で、高齢者施設「デイホーム 家福みー家」でお年寄りと交流しています。この日はピンポン玉を的に入れるゲームで盛り上がっています。施設利用者のお年寄りも声援を背に楽しそうです。
職員の清原忠幸さん(22)は「2日間も来てくれてみなさん喜んでいます。地元の人も楽しめる良い形での交流を重ねられていると思います」とゲームの様子を眺めながら話しました。
初日の23日、與那梓さん(66)は伊波優姫さん、友利愛結さん、宮平梨暖さん、島袋叶愛さんの4人を連れて、久米島とは橋でつながる離島・奥武島のビーチに来ていました。夕食の前に貝殻でオリジナルアクセサリーを作る予定で、その材料を拾い集めに来ました。叶愛さんは「白くてきれいな貝殻を集めている」といきいき歩き回りました。
與那さんはこれまで30回以上の民泊を受け入れてきました。「子どもたちを育てているという思いで『卒業』させています。また来たいという気持ちになってもらえるように思い出をいっぱい作ってほしいです」とにこやかな表情です。実際、一度民泊に来た観光客が3カ月後に家族を連れて與那さん宅にやって来たこともあるといいます。その時の様子を思い出しては「うれしかったですよ」と目を細めます。
2日目の24日に與那さん宅にお世話になった喜屋武隆聖君は、友だち4人とリラックスした様子で「最初はちょっと緊張したけど、(與那さんが)優しいから緊張がほぐれてきた」とすっかり民泊を楽しんでいました。
喜屋武校長はこの事業が子どもたちにもたらしてほしいものとして「個人的には」と前置きしつつ「地元と離島とを比べてみることで、同じ沖縄の中でも文化や自然、歴史が違うことを知り、自分の地域にもっと愛着を持ってもらえれば」と話しました。砂浜ではしゃぐ子どもたちを横目に「いい体験をしてほしい」と語り、残る2日間に思いをはせました。
地元の人々もこの沖縄離島体験交流促進事業を「地域活性につながる」と歓迎しています。久米島町の民泊事業の立ち上げに携わった仲宗根麻衣子さん(48)は「プログラムに対していろいろな指摘や意見を頂けるのが良いです」と、訪れる人のニーズを的確に把握するなどして普段の観光業にもしっかりとつなげていく考えです。
■ビーチクリーン
2日目の24日は、久米島ホタル館のみなさんと一緒に学年みんなで久米島高校近くのビーチで清掃活動に参加しました。少し曇りがかった空でも、なお透き通った美しい海とは対照的に、防波堤の向こうから流れ着いたであろうゴミが、ぱっと見る限りでも散乱しています。約300mの砂浜に下りてゴミを拾い出します。漁具、発泡スチロール、靴、ペットボトル。ありとあらゆるゴミが集まり、約50cm立方のバッグ10個以上分が、ものの15分で埋まってしまいました。
蔵當律希君は軍手をつけた手でゴミを一つ一つ拾いながら「きれいかなーと思っていたけど、意外と汚かった」と率直な感想を口にしました。
清掃の最中でも砂浜の生き物たちは子どもたちの目を奪います。「ヤドカリだー」「これはオカヤドカリっていって、陸に住んでるんだよ」「じゃあ海に入れたら危ないの?」と会話が進みます。そんな小さな命を感じながら、住処をきれいにしていくのでした。
清掃活動後は、ホタル館に集まって、かつて日本から北太平洋ミッドウェー島に流れていったゴミがもたらした影響などを映像で学びました。ゴミを食料と間違って食べてしまって命を落とした鳥を見て、名嘉眞伶君は手を上げて「動物が食べられないから、ゴミは(無作為に)捨てない方がいいと思いました」と、子どもたちの前で発表しました。
■事業を終えて
喜屋武校長は久米島での日々を終えて帰ってきた子どもたちが、久米島へのみなさんへの強い感謝の気持ちを抱いていると感じていました。民泊でお世話になったみなさんに、子どもたちがお礼の色紙を書いている時のことでした。「子どもたちみんな文章がすらすら出てきて。普通は文章を書くことって難しいこともあるはずなんですけど、感謝の気持ちをどんどん表していました。体験こそが考え方や行動を変えるきっかけになります。子どもたちも心に残る体験だったと思います」。5年生のみんなにとってとても印象深い3日間になったようです。
久米島町観光協会の高江洲さんは「素直でいい子たちで、(受け入れる)民家さんも一緒に楽しめました。ホタル館での自然体験やビーチクリーンを多めにできたことで、子どもたちが自然への理解を深められた部分はあると思います」と振り返ります。
今後も修学旅行などを受け入れるにあたって、島の方から提示できる体験プログラムも多様化させることができました。「これまでは『久米島でもともと出来る事』の中から、学校側が何をするか選んでもらうというやり方でした。しかし今回のように、自然環境を学んでもらうプログラムをしっかり実施できたことで、こちらから『久米島ではこういった自然プログラムも出来ますよ』と積極的に提示できる事案ができました」と、自信をのぞかせました。
一方、実際に子どもたちを受け入れてさまざまな自然体験を提供した、久米島ホタル館の活動を支える団体「久米島ホタルの会」の佐藤直美さん(56)は「久米島は小さな範囲に町も自然もあるので、例えば農業の影響で水が汚れてしまったなど、人々の生活が自然環境に対してもたらす変化が分かりやすいです。その分、自然の再生への努力の結果が出やすく、報われる島でもあります」と、久米島が自然環境の学びの場として適していることに触れ、子どもたちには「関心を持ってくれているとすごく感じました。今回の経験が地元の自然環境を再生させたいというきっかけになればと思いますし、無くなりつつある手付かずの自然を支える担い手になってほしいです」と期待を込めています。