大宜味村立大宜味小学校(1クラス:18名)
沖縄本島から東に約360㎞に位置する北大東島。沖縄県で一番東に位置しており、南大東島なども含む大東諸島は「東の果て」を意味する「ウフアガリ」と呼ばれており、それに漢字を当てた「大東」が今も地名として受け継がれています。
600人ほどが住んでおり、その歴史は1903年に八丈島(東京都伊豆諸島)の人々が開拓したことに始まります。このことから沖縄と本土との「チャンプルー文化」が存在しており、例えば北大東島方言の「おじゃりやれ(いらっしゃい)」「あばよーい(さようなら)」が八丈方言と共通しています。
また、サンゴが隆起して出来たこの島は、今でもフィリピン海プレートに乗って北西に毎年5~7cmずつ動いていることが確認されています。島の海岸は崖状で浅瀬が無いため、沖縄本島などに見られる砂浜はありません。
今回はそんな北大東島に、11月8日から3日間の日程で、大宜味村立大宜味小学校5年生の児童19人が訪れ、地元の小学生と交流したり、島の歴史や産業に触れるなどして、本島とは違った離島の一面を学びました。
■入島式の様子
飛行機では約1時間の距離です。那覇空港からまず隣の南大東島の南大東空港まで向かい、それから北大東島空港まで約10分!のフライトです。帰りは北大東島から那覇まで向かうことができます。
飛行機を降りてターミナルビルに向かう途中で、村役場の職員たちが「おじゃりやれ 大宜味小学校5年生の皆さん」と歓迎の横断幕で出迎えました。児童たちは「こんにちは」と大きな挨拶。これからの3日間に期待を膨らませます。
バスで村役場に移動し、入島式が始まりました。
村を代表して鬼塚三典副村長は、島の産業や歴史を紹介しながら「みなさんの目で見て、触れて、体験して島を知っていただきたいと思います。思う存分楽しんで、思い出を作ってください」と呼びかけました。
大宜味小学校の我那覇隆教頭は、昨年の5年生も同じ事業で北大東島を訪れたことに触れ「(現5年生も)昨年の11月から北大東島に行きたいと思い続けていました。子どもたちがたくさん見聞を広げ、地域と交流し、心に一生残るような体験ができればと思います。よろしくお願いします」と挨拶し、児童に温かな目をやりました。
-初日の8日はもう夕方。バスに乗って島内の名所を回ります。案内してくれたのは、村で観光事業に取り組む株式会社フロンティアプラネットの當間リエ子さんです。
■島巡り
児童らはホテルに行くまでの間、島巡りです。島の北西部に位置する「リン鉱石貯蔵庫跡」を訪れました。明治時代後半から昭和25年まで、肥料や火薬などの原料となるリン鉱石の採掘がさかんで、最盛期には現在の島の人口の4倍以上に当たる約2700人が住んでいたといいます。今では採掘は終了していますが、この一帯ではまだリン鉱石が転がっています。子どもたちは実際に手に取って「おみやげにする!」と大はしゃぎです。
「今でもこれで火薬って作ったりするんですか?」「今はもう作ってなくて、外国のものを使っているよ」と質疑も飛び交います。金城英城君はもともと鉱石に興味を持っています。「今ではほとんど価値が無いかもしれないけど、そこらへんに鉱石が落ちているのがすごいと思いました」と、取ったメモを片手に話しました。
島の周囲を囲む断崖絶壁も、大宜味の子どもたちには珍しい景色です。砂浜がないため、
安全に気を付けながら、ビクビクしたりちょっと強気に臨んでみたりして、海を見下ろしていました。
「ウミガメだ!」と聞こえたのはその時です。大きなウミガメがバタバタと泳ぎながら海面に顔を出しました。みんなの視線が奪われます。北大東の海は、ウミガメがもぐっていってもその様子を追い続けるには十分な透明度でした。
この日は、沖縄県内の他の島々とは地質や地形が違う北大東島ならではの体験ができました。
■北大東小学校との交流
2日目の朝は北大東小学校の子どもたちとの交流が待っています。宿泊先から歩いて10分ほど。朝の7時30分には学校に到着して、校内清掃などの「朝の活動」に一緒に参加します。やはり最初はお互い緊張しているのか、会話のきっかけがつかめないままそれぞれの小学校ごとのグループで固まって掃除を続けていました。
出迎える立場の北大東小4年・仲村羚叶君はこの日の交流会で太鼓を披露するメンバーの1人です。「(交流会)が楽しみ。素晴らしい音を届けたいです」と気合は十分です。
体育館での交流会が始まりました。まずはお互いにそれぞれの村の紹介をします。
大宜味小の子どもたちは、大宜味村が長寿の村として知られていること、芭蕉布が有名なこと、野鳥も多くいて、学校の自然観察クラブの活動もさかんだということなどを紹介していきました。最後に「それぞれの地域の素晴らしさを知りたいです。北大東島について、みんなも教えてください」と呼びかけた後、大宜味村在住ミュージシャン・アイモコの「ともだちの木」を歌いました。
この曲は北大東小学校の子どもたちも練習していたようで、両校の子どもたちが声をひとつに揃えて歌いました。1番、2番と曲が進むうちにだんだん声も出ていって、まとまりのある歌声を「いっしょにのびていこう♪」と響かせました。
北大東小の子どもたちも島の紹介をした後は、6人の児童が代表して太鼓を披露します。3つの和太鼓を腰を落として叩き、重く迫力のある音を届けます。かわるがわるポジションを入れ替えながらの演技に、大宜味小の子どもたちは身を乗り出したり凝視したりして楽しんでいました。
演技を終えた北大東小6年の仲村杏さんは演技後「自分の島の伝統文化をまだ触れたことのない人に伝えられました」と満足げに話していました。
■ティーボール
場所はそのまま体育館。大宜味小5年生19人と北大東小5、6年生9人は「ティーボール」で対決します。
ティーボールとは野球やソフトボールに似たスポーツです。バッターがまずティーバッティング用のティーに乗せたボールをバットで打ちます。守備側は野球と同じようにボールを捕ると、ボールを捕ったプレイヤーの元にすぐさまチーム全員が駆け寄り、手をつないで合図をします。バッターは打ってから守備チームの合図までの間に、塁の間をどれだけ往復できたかによって得点を重ねていきます。
打順が1回りするまで1イニングが終わらないことや、静止したボールを打つことから、運動が得意な子も不得意な子も、みんなで一緒に楽しむことができます。
志良堂世奈君は大宜味小の元気印。試合前に「勝ってやるー!」とチームを鼓舞し、場を盛り上げます。
好プレーが出るたびに、お互いが拍手でたたえあえます。試合は1試合目が20-14で大宜味小、2試合目は22-14で北大東小がそれぞれ勝利し、トータルで引き分けに持ち込みました。
試合後は大宜味小を代表して宮城心美さんが「ティーボールは面白いルールがたくさんあったり、ホームランもいっぱい出たりして楽しかったです。またやりたいと思いました」とあいさつしました。
2試合目に出場した大宜味小の宮城力輝君は「負けて悔しかった」としながらも、守備で大活躍しました。
大宜味小にはある野球部が北大東小にはありません。北大東小5年の前川馴太君は「大宜味は遠くに飛ばせるバッターがたくさんいてびっくりした」と感心していました。
試合後のおしゃべりタイムでは、一緒に体を動かした子どもたち同士、会話も生まれてきました。朝一番ではなかなか話せなかったみんなも「部活何してるの?」「太鼓触っていいよ」などと仲良くなっています。中には一発ギャグを振られて披露する子も。集まる人だかりの中で「恥ずかしい恥ずかしい」と言いながらも強靭な精神力でそれを乗り越え、楽しませていました。
■島の産業
北大東小学校を後にした子どもたちは、北大東村海水淡水化施設やアワビやヒラメの養殖場を訪れました。
淡水化施設が1985年に完成して以来、島では水道の水が安心して飲めるようになりました。海水が淡水に「なりたて」の水を、子どもたちが列を成して飲んでいきます。
養殖場では担当者が実際の現場を見せて解説しながら「アワビとヒラメは収益が良い。天候に左右されずに(室内で)育てて安定して利益を上げることで、継続が可能な産業になります」と説明しました。輸送コストのかかる離島ならではの努力を学びました。
最後はアワビの貝殻をお土産にして持って帰りました。食べておいしいだけではなく、装飾品の材料にも使えるアワビは、島の経済活性への期待を背負っています。
2日目の夕方は釣りを楽しみました。地域の若手漁師さんに直接教えてもらいながら、崖から釣り竿を伸ばします。1時間も経てばあっという間に15匹以上も釣れました。
オスのイラブチャーの大物を釣り上げた宮城はちさんは、浮きの深さやエサの付け方のアドバイスを受けてのこの釣果です。「2匹目も釣りたい」と勢い付きます。
魚はその場で捌いて、地域のみなさんと予定している夕食交流会でおいしく食べる予定です。
■振り返り
大宜味小の5年生担任として引率した伊是名友也教諭は、2日目の最後の夜を前に「帰りのバスでは『帰りたくない』と涙を見せる子もいました」と、北大東島が子どもたちに多くの思い出を残した様子を語りました。「大宜味に戻ってからも、釣りの時にお世話になった漁師さんの名前が会話の中に出てきたりします。『島の人や北大東小と仲良くなれて良かった』との声が聞かれました」
北大東での日々を重ねるうちに、交流会での発表や歌もどんどん大きくはきはきしていったといい「クラスの雰囲気がひとつになった」と話します。
北大東小学校の武村盛晃教諭は「北大東小学校は児童数が少ないので、今回大宜味から19人も5年生が来てくれたおかげで(スポーツ交流など)普段はできない活動ができて、子どもたちも喜んでいました」と振り返りました。北大東小の児童は、大宜味小の児童が訪れる前から、しっかり北大東のことを紹介しようと自発的に準備に取り組み、受け入れを整えていたそうです。
交流が終わってからも、大宜味村に興味を持って先生に質問したり「また来年も(大宜味小の子どもたち)来るかな?」と聞いてくる子もいたといい、お互いの地元に興味を持つ絶好の機会となりました。