豊見城市立潮平小学校(4クラス:128名)
沖縄本島から南西におよそ300kmの場所にあり、飛行機で約45分の宮古島。エメラルドグリーンの美しい海に囲まれた空港に降り立ち、全長3540mもの長い橋「伊良部大橋」を渡ると、お米のような形をした伊良部島に到着します。
伊良部島周辺の海は、自然が作り出した複雑な地形が特徴的で、シュノーケルやダイビングを楽しむのにぴったり。隣接する下地島まで足を伸ばすと、海のすぐ近くに二つの池が並ぶ「通り池」と呼ばれる美しい景勝地があります。
島の東に位置する佐良浜地区は、島一番の漁港・佐良浜港がある漁師町です。カツオやマグロの一本釣りが有名で、沖縄県内で消費されるカツオの80%を水あげしています。島の新鮮なカツオから作るカツオ版シーチキン「ナマリブシ」や「かつお味噌」などの加工品がお土産として喜ばれます。
今回はこの伊良部島に、11月1日から3日間、豊見城市立潮平小学校の5年生の生徒・教員136名が訪れ、島の人々や自然との触れ合いを通して離島の魅力を知り、沖縄本島と離島との交流促進により地域の活性化を図りました。
■入島式の様子
那覇空港から宮古空港は、約45分のフライトです。搭乗前に「初めて飛行機に乗るよ」と話す生徒もいました。飛行機の中では隣同士でシートベルトの位置を教えあったり、離陸時の揺れに不安そうな表情を見せたり、生徒たちは期待と不安でいっぱいの様子でした。
宮古空港に到着するとすぐ、入島式が行われる「東地区改善センター」へ向かいます。会場では、民泊を受け入れる伊良部島のみなさんが、首を長くして生徒たちの到着を待ってくださっていました。
入島式では、宮古島観光協会の平良光雅さんから歓迎の言葉、潮平小学校の前城光告教頭からは学校を代表しての挨拶がありました。
潮平小学校の生徒を代表して、大城きらりさんが「何ヶ月も前から楽しみにしていた離島体験で、とてもワクワクしています。今日から3日間、いろいろな体験や交流を通して、島のみなさんと仲良くなり、たくさん思い出を作りたいと思います。伊良部島のみなさんお願いします。」と抱負を語り、伊良部島の民泊事業を代表して、漁協組合の普天間一子さんが「今日からの3日間、みなさんは伊良部島の子供たち『伊良部っ子』です。隣にいる民家さんたちが、みなさんのお父さんとお母さん、おじい、おばあになります。だから、自分のお父さんお母さんだと思っていっぱい甘えて、お話してください。」と心構えを語りました。
■地域交流会
伊良部島では、入島式のあと、引き続き「地域交流会〜伊良部島と糸満市のつながりを学ぼう〜」を行いました。潮平小学校の生徒と民泊を受け入れる島のみなさんがスムーズに打ち解け、島での3日間を楽しく過ごすためのイベントです。
初めは、宮古島や伊良部島でバスガイドを務める菅原さんが、お手製のパネルを使用しながら、伊良部島の紹介をしてくださいました。
「今日はみなさん、観光バスに乗って、伊良部島をぐるっと1周するツアーに参加しているようなイメージをしてもらいたいと思います。」と前置きした後、潮平小学校の生徒4人を助っ人にむかえ、伊良部島に関するクイズを3つ出題しました。
次に、潮平小学校の生徒6人が、プロジェクターで市のシンボルマークや木、花、魚などの画像を映し、糸満市と潮平小学校の紹介を行いました。全員がひとりずつ担当の部分をしっかり発表したことで、伊良部島のみなさんからは大きな拍手。また、生徒全員で校歌を披露しました。
続いて、入島式で心構えを語った普天間さんから「310km離れた糸満とこの伊良部島は、昔からつながりがとても深いんです。」と、漁師たちの交流の歴史を話していただきました。伊良部島で今でも盛んに行われている伝統的なカツオの1本釣り法は、その昔糸満の漁師から教わったことや、伊良部島の佐良浜地区で行われるハーリーも糸満の漁師たちが持ち込んだという話に、生徒たちも興味津々でした。
その後「地域交流会」は、毎年ハーリー(海神祭)の際に佐良浜地区婦人会を中心に披露するというダンス、三線の演奏、カチャーシーと続きました。まだ1日目が始まったばかりではありましたが、潮平小学校の生徒、先生と伊良部島のみなさんの距離がぐっと近くなった、とても濃厚な時間になりました。
■民家体験と民泊体験
1日目の「地域交流会」後から2日目の午前中にかけては、民家体験と民泊体験の行程です。潮平小学校の生徒128名は4~5人ずつの男女別グループを作り、合計29個の民家に分かれました。
平成24年から民泊の受け入れをしているという濱川さんのお宅には、3組の金城早嬉さんたち5人の女子グループがやって来ました。まだ少し緊張気味の生徒たちを、濱川さんはお手製のサーターアンダギーでおもてなし。一息つくと、さっそくみんなで夕飯作りに取りかかりました。この日の献立は、濱川さん特製のソーキ汁に、唐揚げ、ウインナー、サラダにデザートと盛りだくさんです。濱川さんに見守られながら、ひとりずつ下味の付いた唐揚げを油で揚げることに挑戦。ウインナーの調理や料理の盛りつけは、みんなで分担して行いました。
「小学生を受け入れる時は夕飯にハンバーグ、おやつにみたらし団子を作ったり、高校生が来たらサーターアンダギーを作ったりします。島の食材、特に魚は食べて帰ってほしいからメニューに入れることが多いよね。」と濱川さん。「自分の孫はみんな本島に住んでいる(なかなか会えない)から、孫を見ているような気持ちになる。」と目を細めていました。
午後8時頃に立ち寄った普天間さんのお宅では、4組の男子4人が、畳の部屋に布団を並べて寝る支度をしているところでした。「たくさんご飯食べた?」の質問に満足そうにうなずき、伊良部島の感想を「自然が多いなって感じた。」「サトウキビ畑とか野菜の畑もあったよね。」と話してくれました。もっと不安な表情の生徒もいるかと思っていたのですが、みんなすっかりはしゃいだ様子。伊良部島のお父さん、お母さんに見守られているという安心感があることで、友人たちと楽しく過ごせているようでした。
2日目の午前中はあいにく曇り空になりましたが、島のみなさんそれぞれが工夫をこらし、民家体験を実施していました。お母さんと一緒にサーターアンダギー作りに挑戦したり、お父さんとサトウキビの苗作り体験をしたり、下地島の景勝地「通り池」へ車で連れて行ってもらったり、伊良部島でしかできないことばかり。また、下地島にあるゴルフ場内の池で釣り体験を楽しんでいる生徒たちもいました。
■体験プログラム:ミニ海神際
2日目の午後は、佐良浜漁港で「ミニ海神祭」です。毎年旧暦の5月4日に開催される海神祭の縮小版として、「佐良浜ハーリー」と伊良部島の名物行事「オオバンマイ」を体験しました。
伊良部島には、特産品のカツオを一本釣りで水あげする様子から「カツオが空飛ぶ伊良部島」というキャッチフレーズがつけられています。また、生のカツオの切り身が本当に空を飛ぶという驚きのイベントがあり、それを「オオバンマイ」と呼んでいます。
まずは、クラス対抗のハーリー大会です。1クラスを10〜11人ずつの3グループに分け、生徒全員がハーリーに乗船できるようにし、伊良部島青年会のみなさんが2人ずつ船の先頭と最後尾に乗り込みました。漁協組合の座覇さんの号令で、4つの船が一斉にスタート!本来のハーリー競漕と同じ距離とはいきませんが、佐良浜漁港内を一生懸命漕いでいきます。岸では、民家さんたちが家で預かる生徒たちの熱戦を一生懸命応援し、大盛り上がり!1回目のグループでは、2組の船が一番にゴール。2回目のグループは3組が、3回目のグループでは2組が1位になりました。
続いて、お待ちかねのオオバンマイです。この日はなんと、300kg以上のカツオの切り身が用意され、海上に浮かぶ船に運び込まれました。軍艦マーチが流れると、オオバンマイの始まりです!船の上から陸に向かって生カツオの切り身が投げられ、陸では、段ボールやビニール袋を手にした生徒や民家さんが上手にキャッチ。取れたカツオがその日の夕飯になる、という家庭が多かったようで、大人も子どもも一緒になって参加していました。
糸満市はハーリーが盛んな地域ですが、今回初めてハーリーを漕いだという生徒も多く、とても思い出深い経験になったようです。
■事業を終えて
潮平小学校の先生たちは、4クラスそれぞれの担任と教頭先生、養護教員などをふくんだ合計8人の体制で今回の事業に臨みました。生徒の中には、小学校での授業中に落ち着きがない子や、小さなハンディキャップを抱える子もいたようです。最初はとても不安そうに見守っていた先生たちでしたが、3日間の離島体験を通して、生徒たちの表情が変化したことに驚きを隠せないようでした。
「教室の中では、友だちと楽しそうに話すところをあまり見ないのでとても心配していたけど、みんなとうまくコミュニケーションが取れているみたい。」や「民家さんが優しく厳しく接してくれているようで、生徒たちはのびのび過ごせているようです。島のみなさんは子どもとの関わり方がとても上手ですね!」などの意見が聞かれました。
「うれしいことも困ったこともいっぱいある。だけど、民泊事業を始めて、子どもたちから元気をもらって島が元気になった。」と、普天間さんは言います。
潮平小学校を受け入れることになったとき、ちょうど新しい体験プログラムを作れないかと模索している最中でした。糸満市の学校ということを聞き、今回のような海神祭をしてみようと思いついたそう。「でもね、マングローブの皮を削ったり、ナマリブシ作りを体験したり、他の島ではできないどんな体験プログラムを考えても、みんなが感想に書くのは『民家のお母さんは優しかった』とかが多い。民家体験には勝てないんです。でも、これでいいわけさ。今回、ミニハーリーやオオバンマイの新しい体験プログラムを作ったけど、夜この体験について民家でいろいろ話してくれたらそれが一番うれしい。」そう語ってくれました。
夕食の時間帯に民家さんを何軒か見回りとして巡っている際、普天間さんが子どもたちに「無理して食べなくてもいいけど、食べたかったらしっかり食べないさいね。もっと食べたかったらおかわりしてもいいんだよ。他の家の男子はご飯3杯おかわりして食べたってよ。負けるなよ。」と声をかけている姿がとても印象的でした。
離島体験という非日常の中で、島の大人たちに温かく見守られながらのびのび過ごすような経験は、現在、少なくなっているのではないかと思います。「行かせてくれたご両親の気持ちを考えたら、一生懸命応えたい。来てくれた子供が、何かひとつでも自信を持って帰ってくれるようにしたい。」伊良部島のみなさんは、このような気持ちで沖縄県離島体験交流促進事業に取り組んでいます。