読谷村立古堅小学校(3クラス:93名)
那覇から北西に117km、沖縄県北部の運天港から北へ約41km、フェリーで1時間20分の沖縄県最北端の有人島、伊平屋島。島の約7割が山に覆われ起伏に富んだ地形や伝説が語り継がれる神秘的なクマヤ洞窟、樹齢280年の念頭平松、山一面にクバの木が生い茂る久葉山など天然記念物も点在しており自然豊か。橋で繋がる野甫島を入れて5つの集落があり、沖縄の原風景が今も残るのどかな島です。
水が豊かな島では農業の他に稲作も盛んで県内では石垣島に次いで2番目のお米の生産量を誇っています。また、島のお米「てるしの米」で仕込む伊平屋酒造の泡盛「照島」やサトウキビ、もずく、もずくめんなどの特産品も人気です。
今回はこの伊平屋島に、11月8日から3日間、読谷村立古堅小学校(崎濱朋子校長)の5年生の児童・教員99人が訪れ、島の自然や人々と交流しながら島の歴史や文化を学び、島の生活を体験しました。
■入島式の様子
「ようこそ伊平屋島へ」と書かれた横断幕を広げ笑顔で子ども達を出迎えたのは、民泊などでお世話になる伊平屋島のみなさんでした。手を振りながら下船する子供達ははにかみ、少し緊張した面持ちです。伊平屋島に来ることをずっと楽しみにしていた子供達。昨晩は楽しみのあまり眠れなかった子もいたそうです。
伊平屋村産業連携拠点センターで行われた入島式で、伊平屋島観光協会の名嘉律夫さんは「暦の上では立冬ですが沖縄はまだまだ暑いですね!みなさんと色んな体験をして楽しく過ごしていきたいので、島の赤い服を着た綺麗なお母さんたちに遠慮なく声をかけてくださいね!」と子ども達の緊張を解くように笑顔で語りかけました。
古堅小の金城教頭が「ここでしかできない体験をし、自然をたくさん感じてください。ただ、一番大切なのはマナーです。言葉使いに気をつけ礼儀正しくしましょう」と話すと子ども達の背筋が伸びます。
続いて、児童を代表して山口楓雅(ふうが)君が「3日間協力し、島のみなさんとの交流を深めましょう。マナーやルールを守り、伊平屋島の思い出をたくさんつくりましょう。伊平屋島のみなさん、よろしくお願いします。」と凛々しい表情で挨拶しました。
長浜真海(しんかい)君は船上から海を眺めながら海の青さに感動したそう。「伊平屋島の子供達や自然と触れ合い、島にしかない特産品を見るのが楽しみ!」と期待でいっぱいの様子でした。
1組担任の長堂先生が「子供たちは伊平屋島に来ることをずっと楽しみにしてきました。民家のみなさん、いっぱいお手伝いさせて下さい。みんながたくましく戻ってくることを楽しみに待っています」と話すと子どもたちが民家さんの方を向いて「よろしくお願いします」と大きな声で挨拶しました。
−初日の8日、2日目の9日は平和学習と米崎海岸での環境学習、島の子ども達との交流会、各民泊先での体験を行いました。全学級をAチーム「1組の半分と2組」Bチーム「1組の半分と3組」に分けました。
■平和学習
子供たちが伊平屋島の成り立ちと戦争の歴史について学ぶために訪れたのが、「伊平屋村立歴史民俗資料館」です。島の歴史と暮らしにまつわる資料をパネルや映像で展示・紹介しているほか、漁業や農業で使われた道具、貝塚時代の遺跡や出土品などの実物も展示されています。今回は平和学習だったので、戦争にまつわる展示がされているブースを開放してもらい、お話を伺いました。
資料館の西藤優三さんが「船から島を見てどう思った?」と質問すると「山がいっぱいあった!」と子供たちが答えます。「そうですね、伊平屋島は県内でも珍しく、200mを超える山が6つあります。チャートっていう固い岩でできているから山が崩れないのです。その山があるおかげで地下水が湧き出し、お米も多く作られています。そのため戦時中も伊平屋の子どもたちは太っていたと言われています」とのお話に子どもたちも驚いた表情です。また、来ないと思われていた米兵が上陸する際の艦砲射撃で逃げ遅れた人が47名亡くなったことや、上陸されたら降伏しようと島内で事前に打ち合わせがあったために地上戦がなく被害が少なかったというお話を聞き、上陸してから米兵が撮影した当時の写真をグループごとに見ました。仲田華雄(かゆう)君は「戦争の時の貴重な写真を見られて良かった。戦争するより仲良くしたほうがいい。」と話しました。
写真を見た後は、伊平屋村産業連携拠点センターに場所を移して西銘仁正さんにお話を伺いました。「沖縄戦は言葉に言い尽くせない悲惨な戦争でした。戦争は人が人じゃない状態です。兵隊がいないところに戦争は起きません。戦争を起こさないようにどうしたらいいかを学び取ってください」とのお話に子どもたちは熱心にメモをとっていました。「今の平和は、みんなのおじい、おばあが苦労してつくりあげたもの。「命ぐ宝」という言葉は何もなくても命さえあれば立ち上がっていけるという意味です。沖縄戦で体をもって体験したことがこの言葉になっています。帰ったらおじい、おばあにも戦争体験を聞いてみてくださいね」との西銘さんの言葉に子供たちは「はい!」と大きな声で答えていました。
しおりのページに入りきらないくらい書き込んでいた栗田琉花(るか)さんは「戦争は悲しいし二度と起こしちゃいけないと思いました」と真剣な眼差しで話しました。
■ビーチクリーン
2日目の9日は、伊平屋島観光協会のみなさんと島の南側の米崎海岸で清掃活動に参加しました。サンゴ礁に囲まれ、エメラルドブルーが美しい海ですが浜辺にはペットボトルやプラスチック、漁具、瓶など様々な種類のゴミが散乱しています。中には中国から流れ着いたと見られる中国語のラベルのボトルもありました。
観光協会の横溝伸夏さんが「ゴミを拾う理由」を子どもたちに問いながら、生き物、海岸、漁業に対する影響を、写真を交えながら教えてくれました。横溝さんは今回のビーチクリーンに「海に関心を持ち、1人でも海に関わる仕事についてもらえたら最高です。沖縄に住んでいる僕らにとって身近な存在だけど海の大切さを感じ、海の持っている意味を知ってもらいたい。」と期待を寄せます。
横溝さんのお話が終わるとAグループはビーチの東側、Bグループは南側に分かれゴミ拾いをしました。もくもくとゴミを拾っていた豊見山晴夏ちゃんは「プラスチックの破片が多くて危ない、海やみんなのために役立てて嬉しい。」と笑顔。ゴミ袋をいっぱいにしていた岡田和樹君は「海が綺麗になると心も綺麗になる気がする!ゴミを拾っていると貝殻とか海の生き物も発見できて楽しいです!」と満足げな表情です。
重いゴミ袋を協力して持ったり、綺麗な貝殻を見つけたら民泊体験で貝細工を作る予定のお友達にあげたりと、子どもたちの思いやりのある行動が印象的でした。ゴミ拾いの後は、種類ごとに仕分け作業をしました。「これはプラスチックですか?」などとわからないものは横溝さんに積極的に聞きながら、手際よくわけました。最後に今回のゴミの中で1番多かったプラスチックゴミが細かくなったマイクロプラスチックの有害性を学習し、喜友名芭音(はのん)さんが「ゴミを捨てたら海の生物にも迷惑がかかることがわかりました。ありがとうございました」とお礼の挨拶をしました。
■民泊体験
女の子達の楽しそうな声が外まで響いていたのはお刺身屋さんを営む上原恵子さんのお宅です。栗田流花さん、伊狩聡音さん、池原陽南さん、渡久地咲良さん、福井陽桜菜さんの5人が作っているのはセイイカ漁用の疑似餌です。みんな手先が器用で初めてとは思えないほど上手です。1度漁に出たら2週間は海の上というお話に「船酔いしないですか?」「寂しくないですか?」と興味津々。
福井陽桜菜さんは「最初は布がつっかかって大変だったけど慣れると楽しい。イカがこんな風にしてとれるのは知らなかった。」と質問に答えながらも作業の手は止めません。
疑似餌作りに夢中な子どもたちを見ながら「もずくが嫌いな子がいたんだけど、天ぷらの中に入れたら美味しいって食べてくれてね」と嬉しそうな表情です。また「伊平屋島は人口が少ないから、子どもたちがここでした経験や、伊平屋島の良さを周りに伝えてもらってそれがきっかけで人が来てくれれば嬉しいね」とこの事業に期待を寄せているようでした。
大きなボールにみんなで手を入れてムーチー作りをしているのは新垣信子さんのお宅にお世話になっている松田壮一郎君、仲宗根陸翔君、比嘉廉斗君、又吉徠
夢君の4人。粘土遊びをするように盛り上がる4人に「ちゃんとこねなさいね」と言いながら新垣さんは「いつもは年寄り2人だけの生活だけど、子ども達が来るとワイワイして楽しい。自分達で洗い物をしたり、すすんで手伝いもしてくれるから助かるね」と目を細め、話してくれました。
野菜嫌いだと言う又吉徠夢君は「ムーチー作りの前に農作業体験をして、みんなと更に仲良くれました。苦手な野菜も諦めないで食べようと思って昨日は残さず食べました」と得意げな表情です。
女の子達のきゃっきゃっと言う声と「モ〜〜」という牛の鳴き声が響くのは繁殖用の牛を育てる上原英夫さんの牛舎です。上江洲美乃里さん、上地志璃さん、上地美采さん、宇禄瑠美さん、高江洲葵さん、中山紗和さん、の6人がお世話になります。近くで見る牛たちは迫力満点で「怖い!」「可愛い!」が入り混じり少し緊張気味の子供たちに上原さんが「エサやりやりたい人〜?」と聞くと全員「はーい!」と手を挙げます。
牛に会うのを1番楽しみにしていたという中山紗和さんは「初めはちょっと怖かったけどエサをあげたら可愛かったです。牛舎に来る前に念頭平松を見て綺麗で大きくて驚きました。伊平屋島で5年生のいい思い出が作れました」と大満足な表情です。
今月、今帰仁村であるセリに子牛を一頭売るというお話をしながら上原さんは「食卓に出されているお肉がどうやって育てられているのかを知って子供たちに命を頂いている実感を持って欲しい」と願いを込めます。義娘の上原恵理子さんは「家にも同い年位の子供たちがいるから交流させられるのが嬉しいです。最初は人見知りの子もいるけど、最後に別れる時はお互いうるうるしちゃいますね。いつでも上原家に帰ってきてね、第二の故郷だよーって伝えています」と、とにかく子供たちが可愛いんですと笑う姿が印象的でした。
賑やかな様子で貝細工に夢中になっているのは西銘百合子さん宅にお世話になっている伊波寛泰君、友寄暖琉君、荷川取拓磨君、山口楓雅君、松田竜斗君の5名です。西銘さんが海で拾ってきた貝殼や木の実を使って、みんな思い思いの貝細工を作ります。貝を重ねてカメを作ったり、コマを作ったり、アイディアがどんどん浮かんできて止まらない様子です。
そんな子供たちを見ながら西銘さんは「普段は静かな家だけど子ども達が来ると賑やかでいいね。子どもの名前を覚えるのは脳の活性化にもなるし、子どもが喜びそうな食事のメニューを考えるのも楽しいんですよ。」と子ども達が来るのを楽しみにしていたそうです。また「民泊をしていると伊平屋島が気に入って、お母さんを連れて戻ってくる子どももいる。1人はスペインから留学していた子で、伊平屋に行かないと帰国しないって言って戻ってきてくれて嬉しかったですね」と目を輝かせました。
観光協会の金城さんは「民家さんにはただ体験させるのではなく学びを入れてくださいとお願いしています。民家さんは自分の子どものように愛情を持って接しているので、それまで家でお手伝いをしなかった子どもが島から帰ったらいきなりお手伝いをするようになってお母さんから民家さんにお礼の電話が来たりと、嬉しい報告もよくあります」と島での経験は子どもの成長に繋がると自信をのぞかせました。
■我喜屋子ども会との交流会
2日目の夕方に我喜屋公民館のグラウンドで我喜屋子ども会とのドッチビー交流会をしました。ドッチビーとはボールの代わりに布製のフリスビーを使ってする「当たっても痛くない」ドッジボールです。競技をする前にこの日集まった我喜屋子ども会の13人が一人ずつマイクで自己紹介をしました。照れながら、緊張した面持ちで挨拶をする島の子ども達に、古堅小の子ども達は拍手で応えます。
我喜屋子ども会の津田真樹子さんは「小さな学校の子達だから古堅小の生徒の多さに圧倒されているけど、新鮮だし刺激になると思うので交流を深めて楽しい時間を過ごしてほしい」と優しい眼差しで語りました。
我喜屋の子ども達もバラバラになって古堅小の子ども達の中に入り、A〜Dの4グループに別れます。我喜屋の名嘉友梨亜さんは「ちょっと緊張するけど仲良くなれればいいなぁ」とはにかみます。
対戦相手と向かい合うように整列し「よろしくお願いします!」と握手をして競技がスタートしました。笑顔で盛り上がりつつもその眼差しは本気モードの子ども達です。我喜屋の子ども達も一緒に走り回って汗をかいていました。古堅小の子がまだ投げていない我喜屋の子にフリスビーを渡す一幕もあり、子ども達の「仲良くしたい」という気持ちが伝わってきました。結果はAチームの優勝でしたが、どのチームもハイタッチをしたり、我喜屋の子ども達ともドッチビーを通して打ち解けたようでした。
ドッチビーの後は我喜屋の新里誠也君が「伊平屋へようこそ!校歌ダンスを披露します。どうぞご覧ください」と凛々しく挨拶をし、子ども会のみんなで息の合った校歌ダンスを披露してくれました。自己紹介の時の緊張した顔が嘘のようにみんな笑顔で踊っていました。
古堅小の子ども達はクラスごとの合唱でお返しです。子ども達は直前まで知らされていなかったのですが、1組はアカペラで元気いっぱいの歌声を、2組は感情がこもった堂々とした歌声、3組は澄んだ歌声の素晴らしいハーモニーをそれぞれ披露してくれました。その姿を見ながら、我喜屋の子ども達が一緒に指揮をしたり、リズムをとっていてスポーツにつぎ音楽でも心を通わせた様子でした。
会の終わりに、古堅小の岡田和樹君が「伊平屋の子達とドッチビーをして楽しかったです。また機会があったらやって欲しいです」と挨拶すると我喜屋の津田啓太君が「あるよ!いつでもー!」と大きな声で返事をし、周りの大人達も心が和むひと時でした。
また、2組の合唱で指揮を務めた岸田鴻志君は「誰が指揮をするのか決まってなかったので立候補してやることができ、今回の体験でたくさん成長できた!」と自分の成長を実感できた様子でした。
最初はお互い緊張気味の子ども達でしたが、スポーツ、ダンス、歌を通して子どもらしい交流ができ、帰り際には「もっと一緒にドッチビーしたい!」「また遊びたい」と時間を惜しんでいました。
■振り返り会
最終日、10日に伊平屋村産業連携拠点センターに集まり、グループごとにお世話になった民家さんにお礼の色紙作りをしました。各グループごとに個性が溢れ、感謝の想いも溢れて色紙の裏にまでメッセージを書いているグループもありました。
おりがみでにんじんや大根などの野菜を作っていた松田士雅君、仲宗根蓮斗君、伊禮海斗君、山城雫君は仲栄真芳子さん宅で種植え体験をしたといいます。山城雫君は「畑で植えたものをモチーフにして作りました。この前の台風で農作物がだめになっちゃったけど、野菜たちがちゃんと育ちますようにという願いを込めました」と一生懸命、おりがみの野菜を作っていました。
■離村式
振り返り会が終わり、同じ会場で離村式が始まると民家の安里洋子さんが「2泊3日はあっという間だね!いっぱいお手伝いしてくれてありがとう。伊平屋のことを忘れないで、伊平屋のお父さん、お母さんだと思っていつでも遊びにきてくださいね」と話し最後に受け入れた子ども達の名前を呼び、愛情がこもった挨拶をしました。
島に来ることを1ヶ月前から楽しみにしていたという上江洲美乃里さんは「1日1日が一生の思い出になりました。伊平屋の大きな山や海に感動し、沖縄本島にはない自然や歴史を学べてとても勉強になりました。本当にありがとうございました」と感謝を伝えました。
ビーチクリーンが一番心に残ったという福井陽桜菜さんは「このゴミはどこからきたのだろう?なぜ平気でゴミを捨てるのだろう?と考えながらゴミを拾うのが楽しかったです。この活動で人も動物も海も幸せになったらいいなと思います。これからも続けていき、より綺麗な環境をつくりたいです。」と決意を新たにしました。
お世話になった民家さんに色紙の贈呈をすると満面の笑みで受け取る民家さんたち、目をうるませている方や子ども達を抱きしめる方もいます。最後に、サプライズで登場した石川勝也さんから歌のプレゼントがあり、ギターの弾き語りで子ども達への愛情がたくさん詰まったオリジナル曲を披露してくれました。子ども達はまっすぐな瞳で石川さんの歌声に耳を傾けていました。歌に込めた石川さんの想いが伝わったようでした。
■事業を終えて
金城教頭は伊平屋島での日々を終えて帰ってきた子供達が伊平屋島で初めての体験に取り組んだことにより視野が広がったと感じています。「島で経験し、感じたことをこれからの学校生活にそれを生かしてほしい」との思いです。
2組担任の屋宜先生は島での子ども達の様子について「言われなくても班ごとに動き、助け合う姿を見て感動しました。島での体験を通して子ども達の絆が深まり、本島内で学ぶより気づきが多かったと思います」と語ります。体験学習中に子ども同士で譲り合い、助け合う姿を多く目にしました。また「島に来たから挑戦したい」「来年は6年生だから」と積極的にチャレンジする姿もあり、来年は最高学年として下級生を引っ張っていこうという自覚が芽生えるきっかけにもなったようでした。
伊平屋観光協会の金城さんはこの事業が修学旅行の受け入れや島への経済効果にも繋がると語り「今年から高校生の修学旅行を受け入れ始めますが、この事業を通し試行錯誤してきたから受け入れることができました。今回は足が不自由な子どもがいましたが、民家さんがその状況を見てすぐに体験内容を変更し一緒に楽しむことができたのは続けてきた成果だと思います。民家さん達と毎回、「もっとできることはないか」と思考を凝らして色んなことにチャレンジしているので、より充実した体制づくりを構築していきたいです」と現状に満足することなく更なる受け入れ体制の強化に務める考えです。